人間関係におけるリーダーシップの法則
ビジネス用語からプライベートまで、一世を風靡したWin-Winの法則です。
コヴィー博士の『七つの法則』は、経済のみならず、心理学・宗教や瞑想などの影響を受けた人間観を提示しています。
表面的なビジネスのネゴシエーションの方法のみならず、心理学的に、ものごとのかくれた動機や脚本を見つけ、それを改めて見直すことを提案しています。
コヴィー博士の書籍は、難解で宗教じみた雰囲気があるので、おそらく好き・嫌いはあることでしょう。
しかしながら、日常的に意識はしていないが、自分自身を奥深くから動かしている動機や脚本に気づき、もう一度原点に立ち返って考えるのは、ひとつの転機になる可能性があります。
あるいは大きく自分の性格を変えようと思わなくても、少し普段と違った行動を取ってみることで、周囲との関係がほんのちょっと変わるきっかけとなるかも知れません。
ゼロサムゲームからWin-Winへ
私たちは、小さいころから「勝ち⋯負け」の二分法で考えるやり方に多かれ少なかれ慣れてきました。
たとえば、スポーツの試合などでは、勝ち負けがあります。
オリンピックの選手を選ぶためにも、選ばれた人がいる一方で、必ずその何倍もの選ばれなかった選手がいるのです。
「勝ち⋯負け」のパラダイムが深く根付き過ぎると、人間関係などでも、反射的に言い負かそうとしてしまうことがあります。
それで損をしても、ずっと身に付いてきたやり方は、なかなか変えづらいものです。
日常生活の中で、「勝ち」「負け」ということはあまり意識していないかも知れませんが、「儲け」「譲り合い」などの相互関係を考えてみると、無意識に判断の基準になっている場合があります。
社会心理学のゲーム理論では、「人は社会的相互作用を行うことによって得られる利益を最大限にしようと行動している」と仮定しています。
「ゼロサムゲーム」と言うものがあります。「勝ち⋯負け」を仮定した場合、総和は、「1-1=0」となってしまうのです。
それに対して、「非ゼロサムゲーム」といって、ゲームの参加者の合計が一定しない場合があります。ここで、「競争」と「共同」の2種類の動機をもって行動を選択すると言われています。
横綱 | 貴 右 院 | 1勝 | +1 |
大関 | 若 流 渦 | 1敗 | -1 |
※ ゼロサムゲームの1例 |
わたしたちがこれから様々な状況に当たるために、「競争」だけではなく、「共同」することもあれば、さらに豊かな実りが得られるかもしれません。
コヴィー博士は、リーダーシップの原則として、ゼロサムゲームの二分法から離れ、「あなたも勝ちーわたしも勝ち」のWin-Winの選択を提示しているのです。
「勝ち」⋯「負け」をめぐる人間関係の6つのパラダイム
ここで、「勝ち」、「負け」をめぐるいくつかのパラダイムを紹介してみましょう。
必ずしも、どれが最も優れているパラダイムということはなく、その場面によって競争も必要であり、また、相手との関係の維持のために自分が負けることもありだと思われます。
①Win-Win | 自分も勝ち、相手も勝つ。 それぞれの当事者がほしい結果を得ること。 |
②Win-Lose | 自分が勝ち、相手は負ける。 |
③Lose-Win | 自分が負け、相手が勝つ。 |
④Lose-Lose | 自分も負けて、相手も負ける。 |
⑤Win | 自分だけの勝ちを考える。 |
⑥Win-Win または No Deal | Win-Winの合意に至らなければ、 取引しないことに合意する。 |
①Win-Win
Win-Winは、すべての関係において常に相互の利益を求める心と精神のことであり、お互いに満足できる合意や解決策を打ち出すことである。人生を競争ではなく、協力する舞台とみるパラダイムである(p.302)
人生のほとんどにおいては、おたがいが協力し合う相互依存状態の中で良い結果が得られることが多いものです。
次に述べるWin-Lose、Lose-Winは、ゼロサムゲームに相当するものです。
②Win-Lose
「私が勝てばあなたは負ける」というパラダイムです。
たとえば、リーダーシップのスタイルでは「私の言うとおりにせよ」という独裁的なアプローチにつながります。
学校、スポーツ、法律制度などでも、このパラダイムは日常的にまかり通っています。
軍隊などで、敏速にものごとの秩序を決めるためにはある意味、合理的であるのかも知れません。
しかしながら、人の価値を解釈するために、「勝ち⋯負け」、「優-劣」で判断してしまうと、「成績がいいから」、「自分に従ってくれるから」と言った外的なことがらに依存しすぎて、それ以外の努力や、権威以外の考え方などに柔軟的になれなくなってしまう可能性があります。
優秀なお兄さんが可愛がられる一方で、優秀でない弟が自尊心を失い、やる気を失ってしまう悲劇も時折見受けられます。
「お宅ではご夫婦のどちらが勝ってます?」という質問ほど馬鹿げたものはない。両方が勝っていないとしたら、両方が負けているのだ。(p.305)
誰もが勝ちを競い合うだけの家族は、ぎくしゃくした雰囲気を生み出します。
③Lose-Win
逆に、「どうぞあなたが勝ってください」「どうせわたしは負け犬だ」と相手に負けた立場を選ぶ人たちもいます。
状況によって相手に譲るのは致し方ないことで、円滑な社会生活につながることもあります。
しかし、いつも負けた気持ちを抑圧しながら迎合することで、悪い結果につながることもあります。
たとえば、怒りや些細な問題に対する過剰な反応、無気力な態度などが症状として現れたり、失望、恨み、幻滅感の結果として、神経系、循環器系、呼吸器系などの心身症の原因となることさえあるのです。
多くの経営者やマネジャー、あるいは親たちは、思いやりのないWin-Loseから優柔不断で生ぬるいLose-Winの間を、まるで振り子のように行ったり来たりしている・・・(P.306から引用)
Win ⇔ Loseの二分法だけでは、自分の考えや方向性などを確立できなかったり、自分なりの秩序や躾を押し付け、おたがいの立場の違いや考え方の違いなどから決裂してしまうことも多いのです。
④Lose-Lose
おたがいが譲らず、敵愾心に駆られてぶつかりあうことで、物事をダメにしてしまうことがあります。
相手を負かしたい一心で何も見えなくなってしまうこともあります。
成功した人がいると、そねみ、小さいことをこき下ろして失敗に追い込むこと、インターネットの世界では多いように思います。
「豊かさマインド」、「欠乏マインド」という言葉が後で出てきますが、ここに現れているのはまさに「欠乏マインド」そのものです。
「欠乏マインド」を持つ人にとっては、名誉、評判、権力、利益などを人と分かち合うことはとても難しい。
たとえ相手が自分の家族、親戚、友人であっても、(略)他人が褒められたり、大きな成果を出したり、成功したりすると、まるで自分から何かが奪われてしまったような気持ちになってしまうからである。(p.322)
⑤Win
自分自身の良い結果を考え、確保しようとすることです。
⑥Win-Win または No Deal
No Dealとは「取引しないこと」。
双方が納得できる相乗効果的な解決策を見つけることが出来ない場合、「合意しないことに合意する」こともありだという主体的な選択肢を持つことが出来ます。
そこで新たな道を模索する自由が得られます。
ただし、現実場面では、家族や会社の維持のために、No Dealを選ぶことがむずかしい場合もあります。
Win-Winを実現するには
「Win-Winを考える」という第4の習慣は、人間関係におけるリーダーシップの原則に関わる習慣である。
それを実行するには、人間の四つの独自の性質(自覚・想像力・良心・自由意志)をすべて発揮しなければならない。
他の人と相互に学習し、相互に影響を与え、相互に利益を得る姿勢が必要である。(P.317)
Win-Winを実現するためには、勇気と思いやりのバランスが必要です。
感情移入をするとともに、自分の立場を表現し具現化する勇気も必要なのです。
Win-Winの結果を得るためのプロセス
1 問題を相手の立場から見る。本当に相手を理解するように努め、相手と同じくらい、あるいはそれ以上に、相手のニーズや心配・関心事を表現する。 2 対処しなければならない課題と関心事(立場ではない)を明確にする。 3 完全に納得できる解決には、どういう結果を確保しなければならないかを明確にする。 4 その結果を達成するための新しい案や選択肢を打ち出す。(p.345) |
まとめ
人によっては、読むにつれ、高邁な理想を掲げる作者に対し、正直なところ、
「Win-Winなり難し」
というため息が出てしまうことがあるかもしれません。
日本の習慣としては、上意下達が慣例化していることが多く、「上司や先輩のいうことは絶対」ということが多いです。
力押しのWin-Lose関係に疲れ、日々の生活においても、Win-Lose から Lose-Winの揺れ動きに疲れ、という現実があるのです。
振り返ってみて、誠実・廉潔な人格も、豊かさマインドもないわ、とトホホな状況・・。
しかし、先の7章によると、再新再生のプロセスは、「成長→変化→次なる改善」の螺旋上の上向きのプロセスと書かれています。
逆に言うと、複雑きわまる社会生活の中で、少しずつでも、「Win-Winを目指せばいい」いうひとつのメルクマールをいただいたようにも感じます。
最後に、豊かさマインドについての記述を紹介します。
「豊かさマインド」は、深い内的価値や安定、自尊心から生まれるものである。すべての人を十分に、あるいはそれ以上に満足させることが可能である、というパラダイムである。「豊かさマインド」は、その結果、威信、名誉、利益、権限などを、容易に人と分かち合うことが出来る。「豊かさマインド」は、他の人と接しながら、無限の可能性があることを認め、(略)代替案をつくり出し、選択肢を広げ、創造力を発揮するのである。(p.324)
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